
『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である。』これは、イギリスの自然科学者、チャールズ・ダーウィンの言葉であるが、最近、「世の中変化している」と感じることが少なくない。
たとえば少子化の影響は言うまでも無い。我が国の18歳人口だけを見ても昭和41年には、約250万人であったのが、平成23年には約120万人と半減している。この事は年金問題、労働者不足等、多くの社会問題の一因となっている。
一方、情報通信技術により人類が受発信する情報量が爆発的に増えている。人類生誕から西暦2000年までの約30万年間に蓄積した情報量は12エクサバイト(1エクサは10の18乗。バイトはデジタル情報の単位)と言われている。しかし、その後1年間で人類が受発信した情報量は約6エクサバイトであり、たった1年間で30万年蓄積してきた情報量の半分の情報を創出したことになる。さらに、2020年に創出する情報量は35ゼタバイト(1ゼタは10の21乗)と予想されている。これは、2000年に創出した情報量の約6,000倍に相当する量で、爆発的に世界の情報量が増加していることがわかる。実際、先にブラジルで開催されたサッカーワールドカップでは、大会期間中のツイート数(ツイッター:140文字以内の「ツイート」と称される短文を投稿できる情報サービス)は約6億7,200万回で、決勝でドイツが優勝した時には1分間で約60万回のツイートが記録されている。まさに大量の情報が瞬時に世界を行き来する時代になったと言える。
量の大小はあるが、これまでにも、こうした社会の大きな変化に当地域の先人達が挑戦してきた歴史がある。江戸時代の大航海時代には海運を、明治時代の陸運時代には鉄道を、そして昭和に入り道路や空港の整備にも尽力している。小栗家古文書によれば、今から約90年前、知多鉄道設立認可のため地域の有志と連携し、頻繁に上京している記録が残されている。いずれも人や物の移動の大量・高速化を実現する事を先取りするものだが、それが、後の地域振興に大きく寄与した事は言うまでもない。今日の半田、知多地域の街づくりの基礎を作った先人たちは、時代の流れを捉え、「変化できる者」であったのだ。
情報爆発の時代、1台のスマートフォンから世界に情報を受発信することが可能となった。港からでも、駅からでも、空港からでもなく、手のひらの中から、人や物が大量に移動することが可能になったのだ。今こそ、新しい発想のもと、この変化に対応した地域振興、街づくりがなされるべきではないだろうか。幸い、この地域の周りを見渡すと、あちこちにクレーンが立ち並び、新しい時代に向けた変化の兆しを見る事ができる。
今から100年前に比べ、人や物や情報の移動が大きく変化する今日、新しい発想のもと、この「変化」に対応することができた地域こそが未来に生き残ることができるのだ。明治維新の勇士、坂本龍馬が言った有名な言葉「日本を今一度洗濯し候」の如く、被った埃を払い、各地で未来に向けた「変化」の狼煙が立ち上がることを期待している。
愛知県立大学情報科学部 教授
名古屋大学未来社会創造機構客員教授
東京大学生産技術研究所客員研究員
小栗宏次
(おぐり・こうじ プロフィール)
1960年名古屋市生まれ。1990年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。1998 年愛知県立大学情報科学部教授。2011年愛知県立大学情報科学共同研究所所長、現在に至る。
・愛知県個人情報等保護委員会 委員長
・あいちICT活用推進本部有識者会議 委員
・IT利活用による地域活性化検討会 委員(経済産業省)
等を歴任.著書に『100年後の中部』(日刊工業新聞社)など。