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オピニオンHANDA ゲッポウ巻頭コラム


すぐそこにいる“誇るべき人々”(平成24年6月号)

2012年6月7日(木)
すぐそこにいる“誇るべき人々”(平成24年6月号)  私はゴールデンウィーク前の4月20日、新刊を発表した。『太平洋戦争 最後の証言』第3部「大和沈没編」(小学館)である。
 この作品は、昭和20年4月7日に沖縄への水上特攻を敢行し、東シナ海で永遠の眠りについた戦艦大和の生還者を全国に訪ねて、その証言で描いたノンフィクションである。
 これによって、『太平洋戦争 最後の証言』シリーズは完結した。すでに、第1部「零戦・特攻編」、第2部「陸軍玉砕編」は刊行済みなので、ご存知の方もいるかもしれない。
 なぜ今、太平洋戦争の証言を? と不思議に思う方もいるだろう。しかし、私はこのシリーズだけはと、長い間、念願してきた。
 理由は、大正生まれの方々の真実の姿を現代に伝え、私なりにこの方々に感謝の気持ちを表わしたかったからだ。
 太平洋戦争の主力となったのは、終戦時、19歳から33歳となっていた大正生まれの若者である。大正に生を享けた男子1348万人のうち、戦死者は約200万人にのぼる。つまり彼らは、同世代の約7分の1が戦争で命を落としているのだ。言うまでもないが、日本の有史以来、生を享けた男子の7分の1が戦死した世代はほかに存在しない。それほど多大な犠牲を払って「戦後日本」はスタートした。
 そして、生き残った大正生まれの若者は、死んでいった仲間の無念を胸に、がむしゃらに働きつづけ、戦争からの「復興」どころか、ついには世界から“20世紀の奇跡“と呼ばれる「高度経済成長」を成し遂げた。
 彼らは、ただ黙々と働きつづけたのである。今の日本人は、高度経済成長の主力が、大正生まれだったことを知らない。そんなことは教えられたこともないし、逆に日本は戦争で、どれほどひどいことをしたか、ということを教え込まれ、多くの犠牲を出したこの世代を貶めてきた。
 世界には、先の大戦をどう捉えるか、というさまざまな視点がある。その中に、「あの戦争で、世界の“秩序”が変わった」というものがある。ここで言う世界の秩序とは、白人(特にアングロサクソン)による有色人種支配である。白人が黄色人種や黒人を支配するという、戦争前には当たり前だった“常識”は戦後、劇的に変わった。
 植民地だったアジア各国は独立し、やがてその波はアフリカに達し、アフリカ諸国も独立していった。さらにその嵐はアメリカにも波及し、黒人による公民権運動が激化し、キング牧師暗殺などの尊い犠牲を払いながら、今では、黒人のオバマ大統領を戴くまでになっている。
 このもとを考えた時、大正生まれの若者たちの尊い命が何のために失われていったのか、ということに、どうしても行きつくのである。
 私は、戦場に散った200万人という大正生まれの青年たちは、世界の礎となって死んでいった、と思っている。
 生き残った方々も多くが鬼籍に入られ、今、お元気な方も90歳前後というご高齢となっている。私は彼らの思いをなんとしても後世に伝えたいと思い、このシリーズを刊行した。
 取材させてもらった老兵たちは、いつの間にか100人を超えていた。私たちのすぐ近くにそういう方々が今もいることを、どうか多くの日本人に知って欲しいと思う。


ノンフィクション作家 門田隆将

(かどた・りゅうしょう プロフィール)
1958年高知県出身。中央大学法学部卒業後、新潮社入社。週刊新潮編集部の記者、デスク、副部長などを経て、2008年ノンフィクション作家として独立。事件、司法、歴史、スポーツなど幅広いジャンルでベストセラー本を相次いで刊行。「甲子園への遺言」「なぜ君は絶望と闘えたのか」は、テレビドラマになり大きな反響を呼んだ。「この命、義に捧ぐ―台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」で第19回山本七平賞を受賞。このほど「太平洋戦争 最後の証言」シリーズを完結させた。




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老舗に学ぶ(平成24年5月号)

2012年5月17日(木)
老舗に学ぶ(平成24年5月号)  東日本大震災を契機に、日本の経済社会は一段の混迷を深めており、“存亡の危機”を意識せざるを得ない状況に置かれている中小企業も少なくないと思われます。こうした中、長い歴史を持つ「老舗」があらためて注目されています。ここでの「老舗」とは100年、200年あるいはそれ以上「あきない(商い)」を続けることができた企業を指します。
 「老舗」の“底力”や事業継続力の源泉となっているのは「長い歴史をここで途絶えさせてはならない」という経営者および従業員たちの使命感ならびに取引先や地域社会と共に築きあげてきた信用ではないかと思います。「老舗」という言葉は辞書では「伝統や格式・信用がある店。由緒正しい古い店。」とあります。しかし現在、この老舗を取り巻く環境が厳しくなりつつあります。「伝統や格式」「由緒ある」というだけでは店を営むのは難しくなってきているのです。
 少し言い方を変えれば、伝統とか年輪の積み重ねとか、そのものが醸しだす風格や品位といったものでは人を惹きつけることが困難な時代になったということです。現代人の多くが、過去の実績や積み重ねの恩恵を有りがたく思うよりも、将来に期待できるもの・わくわくするものに関心を抱くようになってきている傾向にあると考えます。
 「変化するもの、いままでに無かったもの、初めて目にするもの」でなければ興味を持っていただけないのです。老舗と言われる企業は、このことに気づいてないように見受けられます。また、気づいてはいても新しいものへの取り組み自体が、新規の事業を立ち上げる時とは同じようにはいかないものであります。
 「今までのやり方に間違いはなかった。その証拠に何の問題も起こらなかった。これまでにやらなかったことを新たに取り入れる行為が問題発生につながる。だからこそ、前例のないものに手を出してはならない」と伝統を守ることにこだわってしまいます。誰でも新しいものを取り入れることや新しい風に対してはすこぶる慎重になるものです。実際のところ、経営者には誰でもプライドがあり、台所事情がいかに苦しくともなかなか相談できないものです。突然飛び込んでくるニュースが世間を驚かせる背景には以上のような事情が内在しているものと考えられます。
 しかし、どんなに厳しい環境でも、外的要因に負けず、社是・社訓を忠実に守りながら逞しく生き抜いている老舗もたくさんあります。日本は、老舗大国です。私どもの住む知多半島の中にも歴史ある老舗がたくさんあります。皆さん長い歴史の中で数々の危機を智恵と工夫で乗り越えてきた「老舗」です。長い商いの中で積み重ねてきた経験の中に必ずや現代に活かせる術があるものです。時代のトレンドを読み、ほんの少し発想を変えれば、老舗を蘇らせるヒントも必ずやあると信じます。人に寿命があるように老舗の経営にも「長生きの秘訣」がきっとあると考えています。


半田商工会議所 副会頭 榊原康弘(知多信用金庫 理事長)


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