
アベノミクスの流れの中で景気回復局面にありますが、中小企業においては少子高齢化や団塊世代の大量退職など、人材確保に対する懸念が構造的に強まっているという面もあります。知名度の低い中小企業にとって人材の確保・
育成を出発点とする人材戦略は、生き残りをかけた重要な経営課題の一つです。
近年、「人材戦略」の重要性が高まる中、性別・年齢・国籍などに関わらず、多様な人材を活用することによって、企業の組織力や競争力の強化に結び付けようとする経営手法であります「ダイバーシティ経営」が、中小ものづくり
企業の現場でも注目を集めつつあります。
女性や外国人を問わず、実力のある人材が最大限の力を発揮するような環境を提供し、組織の求心力を高める努力を怠っている企業は、将来の存続が危ないといっても過言ではないでしょうか。
★女性活用と外国人の戦力化
女性の戦略化は、中小ものづくり企業においても、最も身近でかつ極めて重要な人材戦略といえます。潜在的な就業希望者は約300万人超にのぼるともいわれています。かつて女性労働の問題は、仕事と家庭の両立支援や保育園の拡充といった点から語られてきました。昨今では女性の持つ人的資源を活用して社会全体を成長に導くという視点に立った議論がされるような傾向にあります。やはり数でなく質の問題で、優秀な女性キャリアが途絶えることなく、
実力を積み上げていける組織にすることが、女性の活躍できる組織を作るためには不可欠であります。そのような仕組みの出来上がっている企業は、女性だけでなく男性にとってもワークライフバランスが取りやすく、業績の上がる傾向にあります。女性が活躍している企業ほど利益が上がり、企業価値を創造することができるということを経営のトップが明確に意識し、経営に生かしたいものであります。当金庫も、今年度初の女性支店長を誕生させました。
女性を戦略的に登用することで、現場の戦力化だけでなく、女性ならではの価値観、特性、能力を引き出し、イノベーションの創出につなげていくことを期待しての登用であり、また、意識して女性を採用し、育成し、支援すべきであることを実践したものであります。「女性はこうあるべき」というような個人的な思いからその人固有の潜在意識を見逃さないようにするためにも、男女問わず、教育訓練が必要なのかもしれません。
わが国の外国人労働者数は、直接雇用、間接雇用(派遣・請負)ともに年々増加傾向にあります。「人件費の流動費化」を図る目的が主流とされていた時代もありました。近年の内需低迷により、中小ものづくり企業においても、
外国人人材の積極的かつ戦略的な登用の重要性が高まっています。
外国人労働者の採用においては、言葉の壁はないとは言えませんが、企業経営に与えるプラス面の影響も大きいものはあります。雇用することで、グローバル時代に不可欠な社員の語学力の向上と、海外展開への無用な「抵抗感」がなくなる効果が期待できるからです。
最後に「女性の活用」「外国人の戦力化」といった取り組みは、社員の満足度を高め、会社全体の活性化、業績向上にも結び付く可能性を大いにひそめています。中小ものづくり企業は、その柔軟性を活かし、ダイバーシティ経営を通じて企業価値を高め、競争力を発揮したいものであります。
半田商工会議所 副会頭 榊原康弘(知多信用金庫 理事長)